神戸家庭裁判所 昭和48年(家)1614号 審判 1974年4月16日
申立人 溝口定雄(仮名)
相手方 神戸市長 宮崎辰雄
外四名
主文
本件申立はいずれもこれを却下する。
理由
(1) 不服申立の内容と理由
申立人溝口定雄は、“相手方東灘区長が昭和四八年七月三〇日受理にかかる溝口定雄と溝口清子の協議離婚届出の記載は錯誤に付同年八月一一日これを消除した旨の戸籍の記載を抹消して、上記協議離婚の届出を受理し、かつ同年八月八日受付にかかる溝口定雄と坂垣美子との婚姻届を受理せよ。”との審判を求め、その理由として主張するところは次の通りである。
申立人溝口定雄は昭和四八年七月三〇日東灘区役所に出頭して、妻清子との協議離婚届を提出し、受理されて、その旨戸籍に記載されたので、同年八月八日同区役所に申立人溝口定雄と坂垣美子との婚姻届をなした。ところが、同月一一日東灘区長は、前記離婚の記載は錯誤につき、同月九日付鑑督法務局長の許可を得たとして、離婚の記載を消除し、申立人溝口定雄と坂垣美子との婚姻届の受理を拒否している。その理由は前記協議離婚届のなされる前の昭和四八年七月二九日に溝口清子より離婚届不受理願が届いていたのに、係員がこれを看過したためである由であるが、不受理届がさきに提出されていたという証拠は充分でないし、又一旦協議離婚届が受理され、戸籍に記入された以上、不受理届がなされていたからと言つて、裁判によらず、離婚の記載を消除することは許されない、と言うのである。
(2) 当裁判所の判断
先ず東灘区長を除く他の相手方に対する本件申立の当否について考えるに、神戸市は地方自治法第二五二条の一九第一項所定の指定都市であるから、戸籍法第五条により区長が戸籍事務管掌者あり、その処分に不服ある者は当該区長を相手方として、管轄家庭裁判所に不服申立をなすべきである。従つて本件においては東灘区長のみを相手方とすべきものであつて、神戸市長及び東灘区役所吏員である島洋美、板橋春雄及び湯本美津子に対する本件申立は既にこの点において失当である。
そこで東灘区長に対する本件申立について調べると、島洋美審問の結果、関係者の戸籍謄本、調査官千葉昭五の調査報告書、相手方東灘区長提出の資料三(離婚届不受理申出書)、同資料四(東灘郵便局長の証明書)、同資料五(離婚届)、同資料六(戸籍訂正許可書)によると次の事実が認められる。
即ち申立人溝口定雄は昭和四八年七月三〇日東灘区長に対して妻清子との書面による協議離婚届をし、受理されてその旨戸籍に登載された。然しながら前日の七月二九日(日曜)に妻清子からの離婚届不受理申出書が書留速達郵便で東灘区役所に配達されていたのに、当直の者が翌三〇日これを戸籍係に回付するのが遅れたため、戸籍係員が不受理届の出ていることを看過して、前記協議離婚届を受理したことが判明したため、相手方東灘区長は同年八月九日神戸法務局長の許可を得て、同月一一日戸籍の前記離婚の記載は錯誤によるものとして消除したこと。そして申立人溝口定雄より同月八日板垣美子との婚姻届が出されたが、前記の通り不受理申出書が提出されていて、結局離婚の記載が消除されたので、重婚となるこの婚姻届は受理を拒否されたこと。又前記溝口定雄と清子との協議離婚届は、清子が自署押印したものでなく、また清子がこの離婚届に同意したこともなく、抑々清子には離婚意思のないことが、前記不受理申出書の記載内容から見て明白である。
以上の事実が認められる。
ところで協議離婚届は夫婦が合同してする届出であるから、戸籍事務管掌者は夫婦の一方より協議離婚届をする意思のない旨の申出があつたときは、協議離婚届を受理すべきではない。この事は口頭による協議離婚の届けであると書面によるそれであるとを問わない。又協議離婚届をする意思のない旨夫婦の一方より申出があるのに拘らず、戸籍事務管掌者においてこれを看過して受理し、戸籍に登載した場合は、結局夫婦が合同して協議離婚届をしたことにならないと言うべきであつて、その受理は事実を錯誤した結果であると言わなければならない。そして錯誤が明白で且受理後速やかにそれを発見したときは、戸籍事務管掌者は裁判所の干与を待たずに戸籍法第二四条により法務局長の許可を得て戸籍の訂正をなしうるものと解するのが相当である。
本件における申立人溝口定雄と妻清子との協議離婚届の受理の経緯は前認定の通りであつて、それは相手方東灘区長の明白な錯誤によるものであり、しかも速やかにこれを発見したのであるから、同区長が神戸法務局長の許可を得て、前述の通り戸籍を訂正したことは相当である。してみれば申立人溝口定雄と清子との婚姻関係は継続しているわけであるから、申立人溝口定雄と板垣美子との婚姻届は重婚となり、その受理を拒否されたことは当然と言わねばならない。
よつて本件申立は理由がないものと認め、これを却下する。
(家事審判官 室伏壮一郎)